主要産地のプロフィール③

静岡県

山田錦、誉富士
 静岡県の酒の大きな特徴は、酢酸イソアミル系の香りと低い酸、きれいで滑らかな吟醸酒にある。県開発酵母の先駆けとなった静岡酵母と軟水による吟醸仕込みが特徴。1986年、それまで無名だった静岡県が、全国新酒鑑評会で、いきなり金賞受賞数全国一の快挙を成し遂げ、「吟醸王国静岡」と呼ばれるようになった。
 東海地域の太平洋岸、温暖な気候にありながら、北国の酒に劣らない清涼な酒質。

歴史

今も残る静岡最古の酒蔵は、江戸時代初期に駿府で創業。
 江戸期は、生産量を競うよrも、地場の食材に寄り添う、地酒づくりが中心であった。その静岡の酒造りを支えていたのが志太杜氏。
 1980年代に酒造業の生き残りをかけ、静岡県酒造組合と静岡県工業技術センターが協力し、静岡酵母を開発。県開発酵母の走りである。醸造指導に当たった川村伝兵衛技師の力もあって、全国デビューした1986年全国新酒鑑評会では、入賞率全国一を成し遂げ、その後の各県による酵母開発競争の号砲を鳴らした。
 「誉富士」も開発。「山田錦」に放射線照射して生まれた突然変異種で、セガ低く倒伏しづらく、栽培しやすい。

気候風土

前県的に水は軟水。ちなみに駿河湾は、日本一深く、水深2500mで、駿河湾海底から富士山山頂までの高低差は、6000m以上と日本一。
 静岡県の気候は、基本的にはタイ栄養側きこうであるが、富士山の標高差もあり、海岸に近い温暖な海洋性気候地域と、山間部の寒暖差の大きい内陸性気候など、地域による差も大きい。平野部は温暖で、日照時間も長いため、本州で一二を争うほど米の収穫が早い。一方、東部の山間地は平均気温は低く、降水量が多い。山間部は朝夕の寒暖差があるため、米栽培の適地とされ、高品質な米を育成している。

生産量と酒質

「自給自足タイプ」。酒質は涼やかな味。滑らかなテクスチャーを持ち、軽快な酸味と上品な甘味がある。

愛知県

夢山水、夢吟香、若水
 愛知県内の酒造りの歴史は大きく、4地区に分けられる。信長時代からの酒造り伝統の尾張地区、城下町の名古屋、徳川家発祥の地で農工業などの産業盛んな三河地区、そして知多地区は別名「醸造半島」とも呼ばれ、かつては味噌や酢、醤油、清酒を醸造する蔵がひしめきあっていた。濃厚なコクに合う辛口の清酒が多く造られた。

歴史

歴史が古く、乞食、日本書紀には、熱田で造られた酒が、東征するヤマトタケルに捧げられたと記録が残っている。その後、織田信長の時代に、流通改革により青洲城下に物資が集散するようになり酒造が盛んになった。江戸時代に入ると酒好きの尾張藩二代目が酒造を奨励。奈良から杜氏をよび、酒造りが急速に発展。
 やがて、主たる酒造地は冬季に気温が下がる知多半島へ移っていった。温暖な東海地方には珍しく、酒造りの適地だったのだ。意外にも仕込み水も良質であった。
 また、海運も良く、江戸時代の酒の大生産地、灘や伊丹とくらべ、江戸への距離が約半分と近いため、江戸時代も下ってくると、灘、伊丹に迫るほどの生産量となった。生産量の大半は江戸で飲まれるようになり、アルコール度数が高い愛知の酒は「鬼ころし」の愛称で親しまれた。ところが明治以降、鉄道などの普及で、知多半島の酒蔵は大きな打撃を受けた。
 そんな折、江田鎌次郎技師が、人工的に乳酸を添加した速醸酛の開発を開始する。豊穣組と命名された試験酒蔵で、速醸酛が完成。1910年に、大蔵省醸造試験所より、発表され、醸造指導が始まった。今では全酒造量の9割以上を占める。
 酒米開発の歴史も長く、「五百万石」の耐倒伏性を強化した「若水」は、栽培特性が良好で、県内外で作付けされる。主に純米酒や本醸造酒へ使用される。
 近年になって育成された「夢山水」は「山田錦」を母に、愛知県内で栽培が容易な品種として開発。山間地に向き、愛知県内の標高が500m以上の場所で栽培される。
 「若水」に代わり、精米歩合を上げて吟醸酒を作りやすい酒米として開発されたのア、「夢吟香」。

気候風土

東部の三河山地が、県内では標高が最も高いエリア。
愛知県の気候は太平洋岸気候で、おおまかには夏季温暖多雨で、冬季が乾燥少雨。南部の太平洋沿いは、暖流の黒潮の影響で一年を通して暖かい。また、冬場の晴天も多いため、年間日照時間も長い。中央部から西の尾張エリアは、比較的日本海が近く、冬場には降雪も多い。県の東端側の山岳が壁になるため、風は夏の南東風と冬の北西風のみ。北東風と南西風はあまり吹かない。

生産量と酒質

「酒米移入タイプ」

京都府

祝、五百万石、山田錦
 明治維新以降、伏見の酒が、醸造技術と流通の革新によって、飛躍的に生産量を伸ばした。
 今も伏見には1万石以上の大きな生産石数の酒蔵が多く、全国的に流通される酒の生産が多い。府全体の特定名称酒の比率は低い。

歴史

平安時代には宮中で酒造りがおこなわれている。9世紀には、宮中に「造酒司」が設けられる。平安期の「延喜式」には、当時の高度な醸造方法が詳細に記載される。鎌倉時代に入ると、酒を造って売る酒屋という商売が始まる。
 室町時代になると庶民にも酒がいきわたる。
 京都最古の神社である松尾大社は、室町時代後期から「日本第一酒造神」として信仰を集めている。また、室町時代には北野神社に「麹座」があり、麹の製造販売の特権を有していた。
 京都の酒造りは、伝統的に但馬杜氏や越後杜氏など、県外の杜氏が活躍したが、地元の杜氏としては丹後杜氏がいる。

気候風土

北部から中央部は山地と丘陵が続き、県域の約8割を占める。中央部は、中国山地の延長である丹波高地の山岳地帯が続く。
 気候的には、日本海に面する北部は、日本海側気候。冬季に大雪が降り、湿度が高い。比較的、季節による気温差が小さいが、春から夏にかけては、フェーン現象で気温が上がることもある。南部の京都盆地は、おおむね太平洋気候に近いが、盆地らしく夏と冬の気温差がおおきいのが特徴。冬季の降雨は少なくて乾燥しやすい。それに対して、夏季の気温は高く、湿度も上がる。

生産量と酒質

「酒米移入依存タイプ」。
 京都の酒造生産の大部分を占める伏見の酒の特徴は、軟水~中硬水の仕込みみずによる、口当たりよく、柔らかい酒で、「女酒」とも呼ばれる。
 伏見の他にも、日本海の丹後や、宮津などにも酒造場はあり、個性ある酒造りが行われる。日本海側のお酒は濃醇な旨味を持つ酒が多い。

兵庫県

山田錦、愛山、五百万石、白鶴錦、兵庫北錦、フクノハナ、兵庫夢錦、山田穂
 日本酒生産量トップを誇る、日本一の日本酒県。酒米の王と呼ばれる「山田錦」の発祥地。醸造所としては、1万石以上の大きな生産数の酒蔵が多く、全国的に通常流通される酒の生産が多い。

歴史

室町時代に、京都までの交通が発達し、水がよい米どころとして、伊丹や池田での酒造りが始まる。京都の他所の土地で造られた酒ということで「他所酒」と呼ばれ、締め出されそうになるものの、当初は安さから流通量は増え続けた。江戸時代に入り、大消費地が京都から江戸へ変わり、山麓の伊丹・池田から、海運に便利な海際の灘へと酒造の拠点が移っていく。また、六甲山の急流で水車をつかって精米を行うなど、酒造技術も進歩していた。加えて、19世紀初めに灘で宮水がみつかり、生酛造りが確立して、酒質も比較的に向上。灘は、伊丹や池田も含めて、摂泉十二郷と呼ばれる上方の一大酒造地として繁栄し、ここで醸造される酒は、上方からの「下り酒」と、価値あるものと尊ばれた。
 南部杜氏、越後杜氏と並び称される、三大杜氏の一つ丹波杜氏は、兵庫県北部の出稼ぎ農家を中心に生まれた。高い技術を誇る杜氏集団で、評価も高く、他のエリアに指導者として呼ばれることも多かった。
 最初のきょうかい1号酵母が分離されたのも灘の酒造からである。
 兵庫県は酒米の開発にも力を入れており、大正期末に兵庫県立農事試験場で、開発されたのが、酒米の代表品種の一つ、「山田錦」である。また、2018年6月に、地理的表示「GI灘五郷」が神戸市灘区などで、2020年3月に「GIはりま」が姫路市などで指定された。

気候風土

県のほぼ中央を東西に横切る中国山地を境に、北の日本海側は、典型的な日本海側気候、瀬戸内海側は、瀬戸内気候に分けられる。日本海側は、冬季に気温が低く、降雪が多くなり、夏季にはフェーン現象のため、気温が高くなることも珍しくない。瀬戸内側は、年間を通じておんだんで少雨。湿度は低く乾燥している。冬季は晴天が目立ち、内陸地では放射冷気により、早朝の冷え込みが強い。
 六甲山の北側の山間部は、「山田錦」栽培の最適地。雨の少ない瀬戸内気候のため、温暖で年間日照時間が長い。南風を六甲山が防ぐため、米の登熟期の夜間気温が下がって、寒暖差も大きい。
 土質は、水はけのよい微粒の粘土質で、根が深くまで延びやすく、リンやマグネシウムを豊富に含むため、粒張りがよくなっている。

生産量と酒質

「酒米自給移出タイプ」。
 本来の兵庫県の酒の酒質は、灘の硬水の生酛仕込みに代表されるように、飲みごたえある旨辛口。特に「山田錦」や「兵庫北錦」といった軟質米と生酛造りを組み合わせた酒は、酒のボディがしっかりしているため、ソースや乳製品、肉類などのボディのあるフランス料理などとも合わせやすい。

奈良県

山田錦、露葉風
 大神神社や菩提山正暦時など、日本酒にまつわる古跡が数多く残る奈良県。日本清酒発祥の地として、最古の酒母、菩提酛の復活研究会を官民共同で立ち上げるなどの活動もある。
 県開発ではないが、奈良県のみで栽培する酒米「露葉風」が山田錦とならんで多く生産されている。

歴史

日本酒発祥の地といわれるほど、歴史が長い。日本最古の神社とも言われる大神神社は、酒造りの神とも崇められ、その杉玉は特に尊重されている。
 酒が、神への捧げ物から、権力者の嗜好品へと変化した古代。当時の最高権力である朝廷には、酒造り専業の役所、造酒司があった。
 室町時代には、当時の最高幕府の一つ、菩提山正暦時にて、酒造りの研究開発が盛んになる。質量ともにレベルが高く、現代の酒造りにもつながる菩提酛をはじめとする数々の技術も開発され、酒造りが隆盛を極めた。菩提酛は、そやし水と呼ばれる乳酸酸性水を、仕込み水に使用する。生米と米麹を利用して、乳酸発酵により乳酸を生成させて、そこから酒母を造る製法である。
 奈良県だけで、栽培されている「露葉風」は、昭和中期に愛知県の農場試験場で交配・育成された品種。母系に「双葉」の入る「白露」と、父系に「双葉」が入る「早生双葉」の交配で生まれ、両親品種から一文字ずつ取り、中生を表す「風」をつけて命名。

気候風土

海と接していない内陸の県。
 奈良盆地は山地に取り巻かれ、外界から独立した地形。奈良県内の酒造は、ほとんどすべてが奈良盆地内に位置している。
 気候は基本的に温暖。北部の盆地は内陸性気候で、比較的あめが少なく、夏は蒸し暑く冬は底冷えが厳しい。

生産量と酒質

「酒米移入タイプ」。
 海のない奈良県では、イノシシ鍋や大和煮など、濃い味の料理も多く、奈良漬けも甘辛い。一方柿の白和えや、ゴマ豆腐のような優しい味付けもある。酒質も色々で、バラエティに富んでいる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました