籾は稲の種子にあたり、籾殻を取り去ったものを「玄米」、精米したものを「白米」や「精白米」という。
稲はアジアイネとアフリカイネに大別され、アジアイネはさらにジャポニカ種とインディカ種に分けられる。そして、ふたつのバラエティは米のでんぷん構造の違いにより、うるち米ともち米にぶんるいされる。また、いずれも水稲(水田)と陸稲(畑)に分けられる。
日本酒は主にジャポニカ種の水稲うるち米を原料とする。
ただし、「もち米四段」として、もち米を使用する酒造もある。
酒造に適した米の要件
酒類総合研究所の全身である国立醸造試験所は1904年に開設された。醸造試験所は1916年から10年の間に、3回にわたって全国から酒造原料米を集め、理化学的な分析調査を実施。日本酒の醸造に適した米の要件をまとめ、「酒造好適米」の概念が確立した。
現代の酒造好適米に求められる主な特性
①精米中に砕けにくい
米の胚芽や表層部に多く含まれるタンパク質や脂肪、灰分などは、多すぎると麹菌や酵母の生育を急させ、酒質のバランスを崩し、雑味や着色の原因となりやすい。
精米歩合 %=(精米後の白米重量 kg/精米米の白米重量 kg)×100
食用の飯米の精米歩合は通常、92%程度である。
精米時に米が砕けると、外層部の成分が残存したり、粒の大きさや形が不均一になるため、その後の酒造工程にマイナスに影響しやすい。
②米粒が大きい
特に高精米を行う場合には、大粒米が有利。米粒の大きさは整粒1000個の合計重量「千粒重」で表され、おおよそ20~30gの間にある。一般的な飯米の玄米の千粒重が約20~22gなのに対して、雄町や山田錦、玉栄など多くの酒造米は大粒といわれる26g以上。とはいえ、しばしば千粒重が26g未満の八反などからも良酒が醸されている。
③心白がある
「心白」は、米粒の中心部に見られる白色不透明な部分のこと。極めて小さいでんぷん粒(でんぷんの結晶体)が無秩序に集積し、相互の接合もゆるいため、隙間が大きく、光が乱反射するため白濁して見える。
心白米は、一般に吸水性や醪での溶解性がよい。また、軟らかく隙間のある心白部に麹菌の菌糸が入り込み、強い酵素力をもつ麹を造りやすいため、酒造米として好まれる。また、吸水も早いので蒸すと”外硬内軟でさばけのよい蒸米”になりやすい。
心白の形状には、線状や球状、あるいは点状、眼状などがある。
山田錦や強力などは線状心白でより高精米に向く。雄町の心白は球状で軟らかいのが特徴である。
一方、眼状心白米や球状心白米は精米で割れやすいため注意が必要。ただ、吸水性や糖化性はより高い。
心白が大きすぎたり、腹側(胚芽がある方)に片寄っている「腹白米」は、精米時に砕けやすく、無効精米歩合が高くなる。
④タンパク質が少ない
米のタンパク質はでんぷん、水分に次ぐ多量成分で、玄米中7~8%程度含まれている。原料米のタンパク質含有率が高いと吸水性は低下し、蒸米の消化性も悪くなる。また、タンパク質が多すぎると製成酒のアミノ酸度が増して、雑味につながりやすいほか、色や香味が劣化しやすくなる。精米歩合70%の米でも4~6%含まれている。
⑤軟質米である
精米にかかる時間が短いことに加えて、一般に洗米時の吸水性が高く、酒母や醪中での消化性もよい。
栽培が奨励されている酒造好適米
「令和4(2022年)産醸用玄米の産地品種銘柄一覧」では、計125の品種が東京都と沖縄県を除く45の道府県で認定されている。
米の品位
醸造用玄米(酒造好適米)はまた、「農産物検査法の農産物規格規定」により、その品位が6段階に分類されている。
同じ品種であっても整粒歩合(形状が整った米粒の割合)により特上(90%以上)、特等(80%以上)、一等(70%以上)、二等(60%以上)、三等(45%以上)、規格外(45%未満)に分けられ、米質の充実度なども評価される。なお、特定名称酒に使用できるのは、三等以上の米に限られる。
令和2年の検査結果では、特上の割合は0.9%で特等は17.6%だった。そのほとんどは兵庫県である。
特上(733トン):兵庫県686トン、次いで山口県
特等(15033トン):兵庫県10561トン、広島2043トン、岐阜522トン、山形434トン、徳島323トン
追記:米のデンプン構造について
デンプンは米の主要成分であり、玄米重量の70%以上を占める。多くのうるち米のでんぷんは「アミロペクチン」と「アミロース」の2種類からできていて、前者が約80%、後者が約20%の割合。
アミロペクチン:ブドウ糖のつながりに枝分かれの多い房状、米の粘り強い、もち米の場合100%
アミロース:枝分かれほとんどなく直鎖状の構造、米の粘り弱い、極端に多いインディカ米はさらさら
天候が原料米の品質に及ぼす影響
稲はもともと熱帯性の植物であるため、日照時間が長く、適度に高温となる天候の良い年では米の収穫量が増え、等級も良くなるが、天候不順の年では冷害となり米の収穫量や等級は低くなる。一方で、近年のように極端な猛暑が続くと、未熟な米粒が増える「高温障害を受ける」。
天候がいい年では、千粒重が増加し、米粒が充実する。粒張りが良くなると表面の溝が浅くなるため精米した後に糠層が残りにくくなる。
また、登熟期(稲が稔時期)の気温が高いとでんぷん中のアミロペクチンの鎖が長くなる。アミロペクチンに鎖が長くなるとβ化が早くなり、醪での溶け残りが多くなる。つまり、酒かすが多く、得られる清酒の量が少なく、酒質は軽快になりやすい。また、冷害でゃタンパク質が増加することが知られている(タンパク質増→アミノ酸度増→雑味・着色・香味劣化の要因)。
しかしながら、清酒醸造では米の性質にに応じて製造工程に工夫を重ね、目標とする酒質に近づけていくため、最終的に年ごとの酒質の際は見出しにくい。したがって、清酒ではワインのような「ヴィンテージ」という概念があまり意識されていない。
原料米の性質は天候に大きく左右されるが、今ではその性質に応じた清酒醸造が行われるようになってきた。
どのような形に米を磨くか
精米の歴史
足踏み精米(重労働 精米歩合90%程度)→江戸時代末期 水車による精米(15kgの玄米を夜通しで約二日かけて82%)→大正末期 横型精米機→1933年 竪型精米機
近年では、インバーターによる回転速度制御に加え金剛ロールの形状や砥石の目の粗さに工夫を加えたり、省エネのほか、低温精米(米への摩擦熱の発生が少ない精米)、砕米や浸漬割れを減らす低圧力での磨きなどを追及した竪型精米機が開発されている。
一般に玄米600kg(10俵)を精米歩合70%まで削るには10時間、50%にするには50時間近くかかるといわれている。
球形精米(普通精米)
一般的な精米。米はまるく削られていく。厚みの部分には不要成分が残り、長さの部分からは有要な成分まで削られる可能性がある。
原形精米
米粒の回転軸や削り方を工夫し、X%精米の場合、長さ、幅、厚みがすべてX%になるように磨くもの。研磨される糠層の厚さが玄米の部位により少なからず異なり、タンパク質の除去という点からは不満を残す。
扁平精米
どの部分も米の表面から等しい暑さに削り取る精米で、結果、米は扁平になる。不要成分を効果的に除去する(タンパク質などが残りにくい)。
さらに、米の表面から等厚に、かつとくに厚さの削りを優先させ、トータルで不要成分を極小化することを目的に、扁平度合いを高めた「超扁平精米」と呼ぶ。
しかし、一般的に扁平精米であっても、60%精米に75時間かかるというデータもあり、これは丁寧に原形精米をする場合の3倍以上とも言われる。扁平精米は精米歩合を高めに抑えられる反面、精米スケジュールや電気代などの費用について調整が必要となる。また、砕米の発生率が高いこと、70%精米でも胚芽の残存率が高いことなどの課題も報告されている。
追記:精米歩合の誤差
見掛け精米歩合(%)=精米後の白米重量(kg)÷精米前の玄米重量(kg)×100
「精米歩合」と同じで、一般的に公表される数字。重量精米歩合とも呼ぶ。
真精米歩合(%)=精米後白米の千粒重(g)÷元の玄米の千粒重(g)×100
整粒の選別を行ったうえで算出されるので厳密な精米歩合。
無効精米歩合(%)=新精米歩合-見掛け精米歩合
数値が小さいほど上手な精米、よい原料米といえる。
精米後の米
精米後の米は最低でも2週間ほど袋に入れて保管される(「枯らし」という)。一定期間米に吸湿をさせて、水分含有率を整えてる。
酒造好適米の主要産地
生産量上位10県(2022年)
兵庫県、新潟県、長野県、秋田県、岡山県、富山県、広島県、山形県、福井県、北海道
生産量が多い酒造好適米
全検査数量のうち、約33.3%を1位の「山田錦」が占め、2位の「五百万石」が約20.6%、3位の「美山錦」が約6.7%、上位三品種で約60.6%を占めている。
一方、1986年にササニシキ100%の純米酒造りによる「みやぎ・純米酒の県」宣言を行った宮城県をはじめ、造りが難しくなるといわれている飯米をもちいた日本酒造りで高評価を得ている県や蔵も少なからずある。原料米の処理や醸造の技術向上によるところが大きいといえるだろう。
◎飯米でありながら酒造りに定評のある品種
ササニシキ(宮城)、アキツホ(高知)、日本晴(滋賀、山口、福井)、ゆきひかり(北海道)など・・・
次回は、日本酒づくりに欠かせない「酒造好適米」について、もう少し詳しく見ていきます🌾✨
山田錦や五百万石ってよく聞くけど、実はこんな違いがあったんだ…?
そんな発見があるかも🍶お楽しみに!
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