日本酒ができるまで 洗米~製麹編 (SAKE DIPLOMA勉強用)

洗米・浸漬・水切り

洗米の目的は、白米の表面に付着している糠を取り去ることであるが、洗米開始時から白米の吸水がはじまる。洗米装置へ運ばれその後、洗米装置の水分離装置部分の出口から、少量の水と一緒に浸漬タンクへ投入される。その後水を入れ浸漬し、適度な吸水率になったところで、水切りを行う。
 現場では白米吸収率の指標を用いる。

白米吸収率=(水切り後の浸漬米重量ー元の白米重量)×100/元の白米重量

 次の蒸きょうの工程でも水分が増加するが、蒸きょうで増加する水分量はほぼ一定であるから、白米吸収率を目標通りに合わせることが、酒造りの最も大事なポイントとなっている。白米吸収率が高すぎると、柔らかい(水分過多の)蒸米になり、麹づくりが失敗する原因になる。
 吸水速度を最も支配しているのは、元の白米の水分である。白米を1日水に漬けっぱなしにした場合、浸漬を行う直前の白米水分が1%低いと、白米吸収率が約3%高くなる関係にある。すなわち、白米が乾いているほど、吸水過多になりやすいので注意。
 精米歩合が70%よりも小さい(白い)場合は吸水速度が大きい。
 吟醸酒の場合は、洗米から水切りまで、限定吸水と呼ばれる作業を行う。理由は2つある。
①吟醸用の白米はかなり乾いており、洗米を始めた途端急速に吸水を始め、10分ほどで水切り作業に移行しなければ、目標の白米吸収率を得れないため。
②吟醸用の浸漬米は大変脆いため、可能であれば手洗いが望ましいからである。

蒸きょう(じょうきょう)

蒸きょうの目的は、でんぷんをα化し、麹菌の生産した酵素の作用を受けやすく、米が溶けやすくすることが第一である。
 よい蒸米とは、外硬内軟なものとされており、完全にα化され、適度の硬さを保ち、表面がべたつかないもの蒸きょうには、伝統的な甑、または連続式蒸米機が使われる。

甑:蒸きょうは約60分行われる。
連続式蒸米機:ベルトコンベアによって、米を連続的に移動させて蒸すものである。25~40分ほど。通常、放冷機と連結されているので、甑と違い、蒸米の取り出し作業が不要で、作業が効率的である。

蒸米の冷却

蒸米は、そのまま仕込みにしようされる掛米と、製麹に使用される麹米に大きく分けられる。通常、掛米の冷却目標温度は、製麹に使用される蒸米が最も高く、次いで酒母の仕込み、醪の初添と続き、最後は醪の留添となる。
 蒸米の冷却には、自然冷却法と強制冷却法がある。自然冷却法は、吟醸酒造りで見られる。強制冷却法は連続蒸米冷却機を用いる。

発酵と微生物、酵素の関係

微生物の種類

酒類の醸造や発酵食品の製造に関わる微生物は、細菌、酵母、カビの3つのグループにわけられる。
細菌:発酵食品に関わるものとしては酢酸菌、乳酸菌がある。乳酸菌は酸素がなくても生きていける。
カビ:肉眼で見える。麹菌はカビの仲間で、日本酒造場には黄麹菌、焼酎醸造には黒麴菌、白麹菌を使う。麹菌は生きていくのに酸素を必要とする。
酵母:細菌より大きく、アルコール発酵を行う。酸素の有無にかかわらず生きていけるが、酒類の醸造に使われる酵母は、酸素がない状態や、酸素があっても糖濃度が高い状態では、糖をアルコールと炭酸ガスに分解してエネルギーを得る(アルコール発酵)。
 ばお、発酵と腐敗は、どちらも微生物が増えることで食品などが変化する現象であるが、人間にとって都合がよい場合は「発酵」、都合が悪い場合は「腐敗」と呼ばれる。

微生物と増殖

微生物(酵母)に栄養と水分を与え、温かい場所においても、しばらくはじっつぃている(休眠)。その後目を覚まして増殖をはじめ(誘導期)、二倍、その倍、さらに二倍と増殖していく(対数増殖期)。このとき、酵母はアルコールや炭酸ガス、酸なども生成し、温度も上昇する。しかし、そのうちアルコール濃度が高くなって、増殖できなくなる(定常期)。増殖を止めても生きるためのエネルギーは必要で、アルコール発酵を続けるため、さらにアルコール濃度が高くなり、また栄養不足にもなってくるため、徐々に死滅していく(死滅期)。

微生物の増殖の温度

多くの微生物はおよそ30℃あたりの温度で最も増殖が盛んになる。ただし、焼酎酵母の中には34℃まで旺盛にはこうするものがいる。一方、日本酒の酵母は8~17℃といった低温で増殖・発酵できるのが特徴である。
 なお、温度が上がりすぎると死滅する。加熱殺菌(火入れ)はこのことを利用している。

微生物の増殖とpH

日本酒:pH4.2
乳酸菌を完全に抑えることはできないが、清潔な環境、乳酸菌よりも酵母の活動に有利な低温発酵、三段仕込み、により酸が比較的に少なくpHが高い状況でも、腐造を回避している。
※乳酸菌を高い酵母密度で圧倒している

微生物の生育はpHによって、大きく左右される。
・一般細菌:pH7あたりで最も生育し、酸性側の生育限界はpH5.0~5.5である。
・乳酸菌:酸性に比較的強いものもいるが、pH3.5より酸性側で生育できる乳酸菌は、ほとんど存在しない。
・カビ:pH5.0~6.5で最も生育し、酸性に強い。ただし、酸素なしでは生育できないため、醪中では生きていけない。
・酵母:pH4.0~5.0が最も生育に適するが、酸性側の生育限界がpH3強であり、乳酸菌よりも酸性ん強い。

微生物の生育とアルコール

微生物はアルコールに対して弱い。一方、酵母や一部の乳酸菌はアルコールに強いと言える。
 また、酵母は糖分が残っていても発行できるアルコール濃度には限界がある。清酒用の酵母では18~20度。ワイン酵母では13度~15度である。

酵素とデンプンの関係

酵素とは触媒の働きをもつたんぱく質の総称である。デンプンを分解する酵素はアミラーゼ、タンパク質を分解する酵素はプロテアーゼ、脂肪を分解する酵素はリパーゼと呼ばれる。
 日本酒や焼酎で麹を用いる意義の1つが、麹菌が生産する酵素を利用することである。

黄麹の主な酵素

日本酒用の黄色麹の主な酵素は次の4つである。
・α-アミラーゼ
蒸米でんぷんを水に溶ける状態(デキストリン)まで分解する酵素。
・グルコアミラーゼ
デキストリンをブドウ糖に分解する酵素。
・酸性プロテアーゼ
タンパク質をペプチドに分解する酵素(アミノ酸鎖状が長いものをタンパク質、短いものをペプチド)
・酸性カルボキシペプチターゼ
ペプチドをアミノ酸に分解する酵素

発酵の進み方の分類

・ワインの発酵は、ブドウに含まれる糖を酵母がアルコール発酵するシンプルなものである。これを単式発酵という。
・ビールの場合、粉砕した麦芽にお湯を添加して60℃強に保持し、麦芽に含まれる酵素の力で麦芽のでんぷんを糖へと分解(糖化)する。その後、いくつかの工程を経て、麦汁に酵母が添加されて発酵が行われる。すなわち、糖化とアルコール発酵が独立している。このような発酵パターンを並行複式発酵という。
・日本酒の場合、醪の中で、蒸米のでんぷんが麹の酵素によって糖化されるのと同時並行して、酵母によるアルコール発酵が行われる。このような発酵パターンを並行複式発酵という。
 並行複式発酵の特徴の一つは、発酵中に蒸米から糖が補充される結果、アルコール分の高い酒を造りやすいことである。

製麴

麹は、蒸米のでんぷんやタンパク質などを分解する酵素を酒母や醪に与えることに加え、酵母の増殖を促進するビタミンなどの栄養素を供給する役割も果たす。さらに麹が生産する種々の成分が酒質に直接的・間接的に影響を及ぼす。
 製麹は麹室(32℃)で蒸米に麹菌の胞子を付けて生育させ、2日後に麹を完成させる作業である。

種麹

玄米を用いて胞子を着成させた粒状のもの、または胞子を集めた粒状のものを「種麹」または「もやしと」呼ぶ。
 日本酒造りでは、一部の焼酎用の白麹菌が用いられることを除けば、ほとんどが黄麹が用いられる。酒母用・醪用のほか、普通酒用、吟醸酒用等、目的に応じた種麹が販売されており、一般に複数の菌株をブレンドして製品化されている。

製麹作業手順例

製麹初日<床期間>

◎引き込み
 麹室には、大変大きく広い作業台である床がある。作業前に、床にあらかじめ清潔で大きな布を敷いておく。
 麹室の床に36℃強まで冷めた蒸米を搬入する。これを蒸米の「引き込み」という。次に数名以上で、蒸米の塊を揉み崩し、蒸米を床全体に広げて、品温をムラなく目標温度まで近づける。

◎種切り
 所定の品温になったら、「種切り」を行う。小さな容器に必要量の種麴を入れ、胞子が塊で落下しないように目の細かい金網や布を通して、蒸米から50cm以上高いところから、静かに振っていく。これを種切りという。1回目の種切りが終わったら、1分ほど静かにして、空気中の胞子の蒸米への沈降を待ってから、麹積層を反転する。そして、再び種切りを行う。

◎床もみ
 次に蒸米の一粒一粒に均等に胞子がつくように、皆で蒸米を徹底して混ぜる。これを「床もみ」という。そして、敷いてあった布で包み乾燥を防ぐ。
 種切り後の床期間の白米吸収率が麹の出来を支配する。目標は、吟醸酒で32%、普通酒で33%といったところである。麹の要であるグルおアミラーゼの生産効率と行為菌の十分な生育を考えた時にちょうど良い割合である。
 布で包んで感想を防ぐ理由は、麹菌はカビの仲間で湿度の高い環境を好み、胞子が発芽する条件は相対湿度97%以上であるためである。胞子は1時間後に発芽し、数位z看護から細胞分裂をし菌糸をのばし、増殖が始まる。

製麹2日目<棚期間>

◎切り返し
 最初の作業は切り返しである。製麹作業2日目の朝(床もみ後8~10時間に水分と品温の均一化の目的で行うこともある)、麹の粒どうしは、いわば冷蔵庫に1日放置したゴハンのようにくっついているので、麹を切り返し機やふるいを使用して、工事の粒をバラバラにする。
 普通酒用の麴の場合、麴はこの時点で「蒸米の一部に菌糸が点のように見える」といわれる。吟醸麹の場合は、菌糸が少ないため、点よりも見えにくく、短く白い毛のように見える。

◎盛り
 切り返し終了後、直ぐに「盛り」の作業を行う。
 盛りを行う理由は、麹菌が増えた分、発熱も旺盛になってくるので小分けして品温コントロールをしなくてはならないことにある。また、必要酸素量も増えるので、盛らないと酸素不足で麹菌が死んでしまうことにある。
 盛りの操作は、箱の底のスノコの上に化学繊維の目の粗い布を敷き、この上にバラバラにした麹を一定量ずつ盛る。比較的厚めの6~8㎝の層になるようにする。そして仕切り版などで、麹を片方側に寄せる。これは、まだ発熱が比較的に小さいために、表面積を小さく、厚さを大きくすることで、熱を積層内部に籠らせるためである。さらに、乾燥防止と気化熱による品温防止のため、適度な通気性の掛け布を箱の上にする。
 盛り以降の温度計化の考え方の基本として、麹菌は暖かいところで生育旺盛であるが、約45℃に到達したところで生育が止まってしまう。麹菌の第一の目的は醪で蒸米を溶かし、酵母のエサとなるブドウ糖を得るための酵素をたくさん造ることである。麹菌の作る主要な酵素は4種類あるが、酵素の生産性だけではなく、その酵素バランスを理想に近づけるため、最高温度を40~43℃にして保持時間を長めにとる。さらに、醪でアミノ酸を増やしたくない酒蔵が主流なので、黄麹の主な酵素の最適温度の違いを利用して、グルコアミラーゼを多く、酸性カルボキシペプチターゼの少ない麹になるような品温経過をとる。まず、タンパク質が分解されてできたペプチドを分解してアミノ酸にする酵素である酸性カルボキシペプチターゼは35℃あたりで最も多く作られるため、この温度を早く通過して、最高温度(40~43℃)へ持っていく。さらに、最高温度の持続時間が長いほど、グルコアミラーゼが沢山作られる。

◎仲仕事
 仲仕事とは、「本日の麹室での、まん中の作業」の意で、盛りから6~10時間後に行う。品温は34℃~36℃位に上昇していることが多い。表面の菌体の多さをハゼ廻りといい、「仲仕事はハゼ廻りが3分位だった」とも表現する。全体を混ぜ合わせるなどして、温度ムラを解消する。仲仕事では、片方に寄せていた麹積層を少し広げる。

◎仕舞仕事
 仕舞仕事とは、普通酒の麹造りにおいて、「今日の、お終いの仕事」の意である。箱製麹の場合、仲仕事後6~7時間で品温38~39℃位、ハゼ廻り7分位になり、麹特有の栗香(栗の花の香り)を感じるようになり、噛めば甘味がでてくる。これが、昔の仕舞仕事のタイミングのサインである。
 現在の仕舞仕事では品温は仲仕事と同様な操作によって36℃~38℃位に調整し、麴の積層は4~5cmにする。箱全体に麹を広げた形になる。発熱が盛んになり始めたので、品温操作は仲仕事と逆に、熱を逃がす工夫をする。
 仕舞仕事の数時間後、工事は最高温度40~43℃を迎え、品温はほぼ一定になる。適正な保持時間が長いほど、ブドウ糖を作る酵素グルコアミラーゼがたくさん作られる。

製麹3日目<出麹>

麹を麹室から出す作業を出麹といい、出麹のタイミングを判定することを出麹判定という。
 麹の甘味を確認し、麹を割ってハゼ込みを確認し、必要な酵素(特にグルコアミラーゼ)が目標通り得られたと思ったら、出麹をする。
 普通酒は出麹が早く、通常朝行う。麹菌の毛も少ない。一方、吟醸酒は出麹が遅く、通常、出麹時の外観は、麴に毛先の球体が高密度で見られる。
 出麹時は、麹を化学繊維のメッシュや麻布の上に薄く広げて、熱や湿気を逃す。
 出麹後、麹菌の乾燥を進めることを「出麹乾燥」という。また、出麹乾燥で麹を1日放置することを「麴の枯らし」という。逆に、麴を出麹後、その日のうちに醪へ投入することを「出使い」という。麹を枯らしたものの方が品質は良く、酸度が0.2ほど低く、香りがすっきりし、味もくどさや、雑味が少ない。この主な理由は、乾燥は殺菌効果があるので、醪菌に麹以外の微生物、例えば蔵つき酵母や乳酸菌が付着した場合でも、死滅させることができるからである。また、麹菌の生育もベストタイミングで止めるので、麹菌が胞子をつけるといった老ねた麹とならないので、目標通りの香味を造れる麹となる。

今回は「洗米」から「製麹」まで、日本酒造りの最初のステップを紹介したよ🌾✨
次回はいよいよ、日本酒の味の土台をつくる大事な工程「酒母」について詳しく説明していくよ🍶🧪
お楽しみに〜!

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