栃木県
山田錦、五百万石、夢ささら、ひとごこち、とちぎ酒14
観光客による消費もあって、県内の日本酒生産量と消費量が、ほぼ釣り合っている。
栃木県の法河川は、全て一級河川で、3水系に属す297河川、総延長2,696km。水量は豊富で、適度なミネラルを含み、酒造りに向いた水質である。
近年、酒造技術向上を目的に、養成講座を開いて認定する下野杜氏制度が発足。
歴史
酒蔵で記録に残っている最初のものは、江戸時代初期の延宝時代創業。栃木県には、近江商人をルーツとする酒蔵が多い。栃木県は近江から会津の通り路であり、余剰米が多くあったことから、酒造りの適地と見込んだ。そこで、近江商人は上方の進んだ酒造技術を持ち込み、自ら酒造りを始め、酒造業が盛んになったと言われている。
栃木県統一の杜氏制度として、下野杜氏を立ち上げ、2006年に資格認証が開始。2012年に日本酒造杜氏組合連合会に加盟。毎年増え続け、越後杜氏や南部杜氏を抜き、下野杜氏が多数派になった。
「とちぎ酒14」は、栃木県で開発された14番目の酒米で、地方番号をそのまま品種名とした。「ひとごこち」を母に、「コシヒカリ」を父系に交配された品種。主として、掛米に好適な品種として開発され、収量が多く、酒米としては安価に使用できる。開発当初は、醸造方法が広まらず、使う蔵が少なかった。
栃木県では、高度精白が可能な大吟醸向けの酒米を開発。「山田錦」を母に、「T酒25」を父として交配し、2018年に「夢ささら」として出願公表した。
気候風土
栃木県の地形を大きく分けると、東西に山地、中央部北から南へ平野部が広がっている。
気候は、基本的には典型的な東日本型だが、北西部の山地は日本海側気候の特徴も見られる。
平野部では、冬の朝は放射冷却により、冷え込みが厳しく、一日の寒暖差が大きくなる上、突っ風と呼ばれる強風も吹く。梅雨と台風による雨量が多く、平野部では雷が多く発生。冬場は晴れが多く空気が乾燥する。一方、北西の山間部は、冬の降雪が多く年間の日照時間が少なくなっている。
生産量と酒質
酒造好適米の生産は、関東で最も多い。山田錦が半分をしめている。「酒米移入タイプ」の県。
首都圏の食料供給基地である。郷土料理は「しもつかれ」である。
酒蔵は、地酒宣言やテロワールなどをうたい地元の酒米を使った酒造りに力を入れる蔵が多い。酒質の傾向は、きれいな酒質かつ飲みごたえある味。辛口系、生酛系、甘酸系、ブレンドによる複雑味重視など、酒質はバラエティに富んでいる。
長野県
美山錦、ひとごこち、山恵錦、金紋錦、しらかば錦
長野県には、多くの自然環境が残り、日本の屋根といわれる、飛騨山脈、木曽山脈と赤石山脈を擁し、それぞの山に水源を発する湧き水が極めて豊かである。清浄な自然環境の中、その名水で育てる酒米の品質は高い。
歴史
長野県における酒造場の歴史は、室町時代の末期に始まった。
県には地元の杜氏がいなかったため、越後杜氏や、広島杜氏を雇い入れた。それを改めるために県による地元杜氏の育成が1933年にスタート。その時生まれたのが、地名をつけた諏訪杜氏・小谷杜氏・飯山杜氏の3杜氏流派である。
1946年に諏訪の酒造において、蔵つき酵母が「きょうかい7号酵母」として分離された。
長野県酒造組合は、1972年、県内5か所に搗精工場を建設。長野県の比較的小さな酒造でも、高度な精米が行えるように、協同事業を運営。酒米の調達かあ精米まで行った。1995年には、5か所の搗精工場を統合し、品の大町に、最新鋭のアルプス搗精工場を建設した。長野県農場試験場で、1978年に「美山錦」を生み出した。
長野県食品工場試験場が、「アルプス酵母」を開発。吟醸香の成分カプロン酸エチルを大量に生成する「デリシャスリンゴを思わせる香り」。
2003年から、日本酒の「長野県原産地呼称管理制度」を開始。2021年6月には地理的表示「GI長野」が県単位で指定された。
気候風土
全く海に面していない内陸の県である。農地の80%以上は標高500m以上の高地である。内陸特有の気候が顕著で、降水量が少ないし、湿度も低い。また、昼夜、夏冬の気温差がおおきく、年間日照時間長い米穀の栽培には有利である。
生産量と酒質
長野県で造られている酒米は、ほとんどが自県開発。
「酒米自給移出タイプ」の県。
水の良さを感じる、透明感ある軽めの酒質。吟醸系の香り華やかなタイプと、落ち着いた香タイプもある。
新潟県
五百万石、越淡麗、山田錦、たかね錦
「淡麗辛口」が、うまい酒の代名詞になるほど一世風靡したのが、新潟の淡麗酒である。
平成の吟醸酒ブームの立役者。県立醸造試験所と酒造組合が協力し、軟水醸造吟醸タイプに工夫を重ね、淡麗辛口に一本化することで、見事に人気の花を咲かせた。
新潟酒造組合は2004年から「にいがた酒の陣」を開催。
歴史
中世から続く酒蔵も残っている。江戸時代後期、寒造りが始まる。冬場に関東の酒造りに出稼ぎする者も多く現れるようになる。地元での酒造りが盛んな上、関東への出稼ぎも多く、越後杜氏は徐々に勢力を拡大し、支流派を抱える、日本三大杜氏の一つとして数えられるようになった。
また、昭和初期に当時全国で唯一の県立清酒専門醸造試験場を設立。また、新潟県農事試験場では、酒米の開発も強力に推進。その成果の一つが、1950年代半ばに開発された新潟県を代表する酒米「五百万石」である。一時は、生産量日本一も誇った。麹が造りやすくそれでいて溶けにくい米質は、米を磨かなくても、すっきりした軽い酒質になるため「端麗辛口」の酒を造るのに最適。その後、大吟醸用に新たに開発された酒米が「越淡麗」。
高度経済成長期に、新潟県の醸造試験場が端麗辛口一本にしぼって指導。「新潟の酒」=「端麗辛口」、「辛口」=「うまい酒」のイメージづくりに成功。
近年では、原産地呼称制度も始まっている。新潟県産米100%使用、精米歩合60%以下の特定名称酒、新潟の水を使って、新潟県内で仕込まれた酒を条件としている。また、2022年2月には、地理的表示「GI新潟」が県単位で指定された。
気候風土
全国でも有数の豪雪地帯である。
信濃川などの河川がつくった扇状地が、日本海側最大の面積を誇る越後平野である。上流から運ばれる肥沃な土壌と豊富な降雪の雪解け水による良質な農業用水により、一大穀倉地帯で「米どころ新潟」と呼ばれる。
また、山間の魚沼地区は朝と夜の寒暖差が大きいため、米デンプンの質がよく、うまい米がとれる地域として有名である。
生産量と酒質
酒造場数全国一位。魚沼エリアを含む中越地区が最も多く4割近く。酒造好適米の生産量は、兵庫県に次ぐ二位である。「酒米自給自足タイプ」。
富山県
五百万石、山田錦、雄山錦、宮の香
天然の生簀と呼ばれる水産資源の宝庫、雪解け水も良質で豊富。
ブランド酒米の南砺産「五百万石」など、潤沢に良質な米がとれ、水も良く、冬場の寒気も揃うなど酒造りは好環境である。
歴史
奈良時代には酒造りが行われていた。大伴家持は「造レ酒歌一首」を万葉集に残している。
現存する最古の酒蔵は、新潟と富山の県境で江戸初期の1626年に創業した。明治以降の開業蔵も多い。県産酒の比率も8割以上と高く、酒の地産地消の県である。
昭和後期に、富山県農業技術センターにおいて、酒米の「雄山錦」の開発が始まる。「五百万石」に代わる、吟醸に向く酒米を目指して、「ひだほまれ」と「秋田酒33号」を交配した。酒質は、ふくらみのある味で、やや濃醇系の辛口に仕上がりやすい。
気候風土
富山県は三方を高い山に囲まれている。富山平野には5本の一級河川が流れる。
立山連峰に降った雪は、万年雪として夏まで残る。この自然の貯水池、雪のダムから季節を問わず、水温が低い雪解け水が豊富に流れる。加えて、富山平野の広い水田地帯も、水をためて田んぼがダムとなる。県土の半分以上を森林が占め、緑のだむとも呼ばれ、豊富な貯水量を誇る。
富山は日本海側気候に属し、シベリア高気圧による冬型の季節風による冬季の降雪が大きな特徴。富山平野の三方を囲む山地は、世界有数の豪雪地帯である。ただし、日本海を北上する暖流の対馬海流の影響で、気温は比較的温暖。一年を通して南寄りの風が強く、日本海で低気圧が発生するとフェーン現象がよくみられる。
水資源が豊富で軟水が特徴。全国で7番目に軟水。昭和の名水百選と平成の名水百選で合わせて8か所選ばれ、熊本県と並んで全国で最多である。
生産量と酒質
「移出超過タイプ」。南砺産の五百万石が県外の酒蔵に人気で、引き合いも多い。
富山名産のブランド魚も多い。また、富山市は昆布の消費金額が日本一。富山の酒は、海側の酒蔵の鮮度の良い肴に合うクリアな味の淡麗な辛口タイプが多い。山側の酒蔵にはボディの太い味もある。
石川県
五百万石、石川門、百万石乃白、山田錦
歴史
室町時代後期に「加賀の菊酒」という幻の名酒が、加賀国で造られ、京に運ばれたと文献が伝えている。
江戸時代後期に、酒の寒造りが定着すると、酒屋働き専門の出稼ぎの酒男が「能登衆」と呼ばれて、はっきり区別されるようになった。能登杜氏の始まりである。明治時代には、「能登屋」という能登杜氏を斡旋するところが、近江の大津にあった。また、能登杜氏は吟醸造りに定評がある。
2005年12月には、地理的表示「GI白山」が日本酒で初めて白山市で指定された。
気候
県北部の能登半島は、三方を海に囲まれている。
石川県の気候は、日照率の低い日本海側気候。特に冬場はそれが顕著で、北西の風が強く、気温が低くなって降雪と雷が多い。加えて、日本海の低気圧通過による、フェーン現象もみられる。金沢市は冬場の降雪がかなり多い。能登は冬場の雪が少ない割に、日照時間が短い。
生産量と酒質
「酒米移入依存タイプ」の県。
「金沢酵母」の酒は、きれいな酸と雑味の少ない酒質で、口当たりよく、特に吟醸酒に向いている。石川県の定評ある酒造場の中には、山廃造りの酒に力を入れている酒蔵も多い。従来、吟醸酒は速醸酛や高温糖化酛を使用することが多かったが、山廃酛と吟醸造りを組み合わせ、口当たりがなめらかで、後味にはしっかりボディを感じられる山廃吟醸スタイルをいち早く確立した。
近年、新たに石川県産オリジナル酒米「石川酒68号」を開発。2020年に「百万石乃白」と命名し、製品化されている。
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