青森県
華吹雪、華想い、豊盃
歴史
青森県には江戸時代から続く古い酒蔵が多く、津軽地方の弘前周辺と南部地方の八戸周辺に残っている。津軽では、江戸時代中期には、藩内の酒蔵は200軒をこすほどに栄えた。
一方、県東の南部地方沿岸部では、元禄期に東廻り航路が開発され、海路で近江商人が八戸入りし、西方の優れた酒造技術を持ち込んで、八戸の酒造りは大きく発展した。
明治期に入ると、弘前において純粋酵母醸造法が確立される。酒母を使わず、短期間で酒造りする革新的な醸造法だ。また冷却器を使い、醸造場を年中一定の温度に保って酒造りする、当時としては画期的な四季醸造も始まった。
近年は酒造に関する各種の研究開発で功績をあげている。酒造用酵母の「まほろば華酵母」シリーズは、華酵母、吟酵母、醇酵母、芳酵母の4種類。
「華吹雪」は純米酒向き。「華吹雪」に代わる、吟醸酒用酒米として開発されたのが「華想い」。「山田錦」と「華吹雪」を交配している。
気候風土
低地で最大なのは津軽平野。砂礫層が多く分布し、場所によっては砂質土と粘土が互層状を呈するところもある。南部地方では、六ケ所台地などの台地が広がり、主として土質はローム質。
気候は、冬季には日本海を渡って湿度の高いシベリア寒気が、奥羽山脈にぶつかって津軽地方に大雪を降らせる。一方で、太平洋側には乾燥した風が吹き下ろすため、南部地方は晴天の日が多い。
また、太平洋側は夏季に冷たく湿った偏東風のやませが吹くため、低温で多湿の日が続きやすい。
生産量と酒質
「華吹雪」が836tと約7割を占めている。「自給自足タイプ」
青森県はリンゴをはじめ、ニンニクやゴボウの生産量が日本一。
郷土料理には、せんべい汁にじゃっぱ汁、いちご煮や味噌貝焼き、あんこうのともあえなど、酒肴の名品が揃う。濃い味噌味に合う、濃醇でしっかりした酒質の酒もあるが、近年はイカやホタテの甘みに合う穏やかな酸味とクリアで柔らかい酒質、水のきれさを印象づけるタイプの酒も増えつつある。
宮城県
蔵の華、美山錦
宮城県は、全国で初めて純米酒に特化した「みやぎ・純米酒の県」宣言をした。そして、特定名称比率は、約96%と全国1位を誇る。酒造りの特徴として、一般米を使った酒が多い。特に掛米に、一般米を使うケースが多い。
歴史
宮城の酒造りの始まりは、伊達政宗公の時代とされる。当時の大和(奈良)の国から酒造職人を招聘し、場内の名水湧出地に、政宗公自らの指図で、酒蔵も建築した。
藩政時代から今にいたるまで、宮城の酒造りを支え続けるのが、三大杜氏の一つ、現在日本最大の南部杜氏である。低温長期仕込みの澄んできれいな酒を造る。
1986年に「みやぎ・純米酒の県」宣言として、宮城県産ササニシキ100%の純米酒づくりを通して、いい酒、うまい酒造りに努めると、発表した。その後、2007年には、「これからもみやぎ。純米酒の県」宣言をしている。
気候風土
宮城県の気候は、典型的な太平洋岸気候で、東北部にあたる仙台平野は、太平洋に面し、海風が入るため、夏は暑さがやわらぐ。しかしこの海風は「やませ」と呼ばれ、時には日照時間の減少や気候の低下をまねき、「冷害」となることもある。冬は比較的に暖かい。
生産量と酒質
県内で造っている酒米は、ほぼ県内で消費し、県外移出も少ない。「酒米自給自足タイプ」。
酒造好適米生産量1番の「蔵の華」は、宮城県初のオリジナル酒米。山田錦を母に背が低く、耐寒冷性に優れた「東北140号」を交配して生まれた。稲は中生で、籾は大粒、心白発現率は低いが、低タンパク質で酸度、アミノ酸度が低い酒質になる。
宮城県の澄んだ味の辛口の酒質は、宮城の魚介類と好相性。
秋田県
秋田酒こまち、美山錦、美郷錦、吟の精
「美酒王国」を名乗る。「秋田酒こまち」をはじめとする数々の酒米を開発している。
また、秋田県開発の酵母「秋田流花酵母AK-1」が、きょうかい1501号として頒布される。
歴史
秋田の酒造りの歴史は古く、創業500年以上を誇る歴史のある蔵もある。17世紀以降に、生産量が大きく伸びた。
鉱山周辺の酒造業は、大いに繁栄し、酒造量が増えた。当時の酒造業者のほとんどは、地主階級だった。地主は、酒造りに直接は携わらず、冬季に仕事のない小作人を使って酒造りを行った。これが、山内杜氏の始まりである。家庭内どぶろくも多かった。
昭和に入り、県内の蔵元の醪から、きょうかい6号酵母が分離された。DNA解析の結果、6号はそれまでの酵母と明らかに区別され、6号以降のきょうかい酵母は相互に近縁関係にある(6号はそれ以後の酵母の元祖)。
気候風土
土壌的には、黒ボク土や砂礫、砂質シルトが混在している。水の硬度は、全国平均よりかなり低い軟水。
秋田県の気候は、典型的な日本海側気候で、冬季は北西の季節風が強く、全国有数の積雪地帯である。曇天日数も月の8割以上と多く、湿度も高い。
秋田県の清酒免許場数のほぼ半数が県南の横手盆地に集中している。
生産量と酒質
酒造好適米の生産は、東北で最も多く3,667t。酒造における酒米は、「酒米自給自足タイプ」。酒蔵が購入する酒米は、ほぼ県内産で、農家の売り先もほとんどが県内の酒蔵となっている。
秋田の食習慣や県民の嗜好か、酒の傾向は甘め。全体的に北国の酒らしく、酒質はきれいで、甘味が豊かである。雑味はすくないが、微妙な渋みや苦みもあることもあり、味幅は広め。現在では、多様性に富み、輪郭のはっきりしたものが多い。
山田錦に匹敵する酒米をと開発された「美郷錦」は、山田錦を母、美山錦を父として交配し、透明感に加え洗練された酸味が特徴。
また、新たに県産オリジナル酒米を開発。秋田酒120号、秋田酒121号が、一穂積、百田の名前で、2022年、農林水産省に品種登録された。
山形県
出羽燦々、出羽の里、美山錦、雪女神、酒未来、山酒4号
「吟醸王国山形」とも呼ばれ、酒造生産量における吟醸酒の比率が高く、酒質の評価も高い。
歴史
1500年代末に創業した酒蔵が3社、1600年初期創業が2社と古くから酒造りが盛んであった。中には、応仁の乱で京都の都が荒れ果て、都落ちして出羽の国に行きついたとい家もある。特に大山では、江戸後期には北海道から長崎まで海路を利用し「大山酒」という統一ブランドで販売していた。
江戸時代末に、庄内藩が、進歩的な農政を進め民間の米に対する研究が熱心になった。その研究成果の一つが、酒米「亀ノ尾」である。明治中期、余目の篤農家・阿部亀治が、米の三大品種の一つと呼ばれる新水稲種「亀ノ尾」を生み出した。「亀ノ尾」は、耐冷性に優れ多収量。粒が大きく、食べてよし、酒に醸してよしの米であった。
昭和期以降も米研究が盛んである。県の研究機関で開発した「出羽燦々」「出羽の里」「雪女神」に加えて、民間で開発した「酒未来」「龍の落とし子」など、新開発の酒米は、枚挙に暇がない。中でも、1985年に、山形県と酒造組合、JAが力を合わせて開発した「出羽燦々」は、山形単県での栽培にも関わらず、酒造好適米の中では、「吟風」に次いで8位と生産量が多い。
2016年12月に地理的表示「GI山形」が都道府県単位で初めて指定された。
気候風土
山形県の気候は、日本海に面する沿岸部と内陸部に大きく二分される。
海岸部は、海洋性である日本側気候であり、多雨多湿。年間の日照時間は短めで、冬季には北西の季節風が吹雪く。
内陸部は、気候が温暖で気温較差が大きい。内陸部の母紙地域では、冬季の積雪が多く、夏季に大雨も多い。年間平均気温も11.0℃と低めだ。村山・置賜地域は雨、雪とも少なく、穏やかな気候である。
生産量と酒質
出羽燦々が生産量の約半分を占める。兵庫県に次いで、酒造好適米の種類が多い。県内で造っている酒米は、ほぼ県内で消費し、県外移出は少ない。「酒米自給自足タイプ」
吟醸酒が多く、やわらかくて透明感のある酒質に加えて、米の旨味と甘味がのって、しっかり、飲みごたえのある味わいである。
福島県
夢の香、五百万石、美山錦、福乃香、山田錦
全国新酒鑑評会での金賞受賞数が、2012年から2021年まで、9年連続日本一を記録した。伝統的な酒の産地会津に加えて、中通り、浜通りの酒質も高い。若手の酒蔵の躍進も著しく、今の日本酒ブームのいったんの担い手になっている。
歴史
福島県における酒造りは、会津において、16世紀に始まった。会津に入封した浦生氏郷が、近江から杜氏を呼び寄せたのが最初である。
会津では、田中玄宰が、藩営による酒造りを始める。財政を立て直すための、藩政改革の富国政策である。
明治後期、大蔵省醸造試験所の嘉儀金一郎が「山廃仕込み」を考案。金一郎は、会津の酒蔵において実証試験醸造を行い、会津において、山廃造りは確立された。
その後、平成に入って、福島県ハイテクプラザが、福島県初のオリジナル酵母「うつくしま夢酵母」を開発。続いて福島県農業試験場が、県で初めての独自開発酒造好適米「夢の香」を誕生させた。
気候風土
福島県は、西部を本州の背骨といわれる奥羽山脈が貫き、東部を阿武隈山地が南北に貫いている。
福島県の気候は3つのエリアによって異なる。
仲通り:日本海側と太平洋側の気候の中間。夏は山間部では暑くないが、盆地では蒸し暑く、冬は冷たい風が吹く。冬季には雪が積もる。
会津:日本海側気候かつ内陸性気候で寒暖差が大きい。夏は山間部では涼しくなるが、盆地は蒸し暑く、冬の気温はかなり下がって大雪が降る。
浜通り:太平洋岸の気候で、年間降水量が多く、梅雨と秋に雨が多い。夏は、海から涼風が吹き込み、気温が上がらず、冬季には、暖かく雪は降らない。
生産量と酒質
福島県の清酒免許場数は、約半数が会津、4割ほどが中通りに、1割が浜通りに位置する。
「酒米移入依存タイプ」である。
酒米の「夢の香」は県の主要酒米の「五百万石」を上回る栽培適正と酒造適正を求めて開発された。「夢の香」は、「八反錦1号」を母に、「出羽燦々」を父に交配された品種である。
県開発の酵母「うつくしま夢酵母」との組み合わせで、「夢の米・夢の酒」とブランディングされている。今では「五百万石」を抜いて、県内ナンバーワンの生産量を誇る。
福島県のお酒は、クリアー感ある澄んだ甘口のあ酒質が多い。
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