甘露焼酎(芋焼酎)
甘露(サツマイモ)を主原料にした焼酎である。
麹は米で作られることが多い。白麹菌が用いられることが多いが、最近は黒麹菌を用いた製品も増えている。
代表的な甘露の品種はコガネセンガンで、甘みとコクのある甘露焼酎らしい香味になる。マスカット系のブドウやビールに使われるホップにも多く含まれるテルペン系の香気成分やβ-ダマセノンという甘い香りの成分が香を特徴づける。
他にも、芋の中の色が白いジョイホワイトは柑橘系や花の香りのすっきりした香味の焼酎になる。肉色が紫色をしている紫系のアヤムラサキやムラサキマサリには、赤ワイン用のブドウと同じアントシアニン色素が含まれており、その焼酎にはヨーグルトや赤ワインのようにジアセチルの匂いがある。ベニハヤト、アヤコマチなどカロテンを多く含みカロテン芋とも呼ばれる橙系の品種は、ゆでた人参やカボチャ、紅茶、パパイヤなど南国の果物のような香りの層中といわれ、カロテンに由来するβ-イオノンが特徴香成分として重要な働きをしていることが明らかにされている。
甘露焼酎は常圧蒸留した香味が豊かなものが主流である。
麦焼酎
大麦を主原料とした焼酎で、主に長崎県の壱岐島や大分県で生産されている。
麹の原料には壱岐島では米、大分県では麦を使用する。麹の米又は麦:主原料(掛け)の大麦は重量比で1:2が一般的である。「壱岐」は地理的表示に指定されており、米麹及び壱岐市の地下水を用い、壱岐市で造られた単式蒸留の焼酎に限り表示できる。
大分県では1970年代から麦100%の麦焼酎が造られるようになった。
常圧蒸留の製品は麦特有の香ばしい香りと濃醇な旨味がある。減圧蒸留の製品は淡麗でくせがなく、華やかな香りで飲みやすいタイプになる。
米焼酎
麹も主原料も米を用いた焼酎で、熊本県南部、人吉地方の球磨焼酎をはじめ各地で製造されている。
球磨焼酎の始まりは江戸時代中期頃と推察されている。米は90-85%程度の精米歩合のものが多い。
「球磨」は地理的表示に指定されており、米麹及び球磨川の伏流水である地下水を用い、球磨郡または人吉市で製造された単式蒸留の米焼酎に限り「球磨」を表示することができる。
減圧蒸留のライトタイプの製品が多い。
泡盛
泡盛は沖縄の伝統的な焼酎で、黒麹菌を用いた米麹と水のみを原料として一度に仕込む全麹仕込みを特徴とする。
蒸留技術は15世紀に東南アジアとの呼応駅のなかでもたらされたと考えられている。
原料米は明治・大正時代から主にインディカ種のタイ米が使用されている。濃醇な香味を特徴とし、常圧蒸留されることが多いが、一部減圧蒸留の製品もある。
泡盛には古酒(クース)を珍重する文化があり、戦前の沖縄県には100年を超えるような古酒が家庭で代々受け継がれ、大切なおもてなしに使われていた。古酒は素焼きの甕を用い、仕次ぎと呼ばれる方法で維持される。古酒にはバニラの香や甕熟成に由来する甘い香りが生まれ、まろやかな味わいとなる。なお、2015年8月1日以降に瓶詰された市販の泡盛に「古酒」の表示をするには全量が3年以上貯蔵されたことが必要になった。
泡盛は沖縄県以外でも造ることができるが、「琉球」は地理的表示に指定されており、琉球泡盛と表示できるのは沖縄県産のものに限られる。
黒糖焼酎
黒糖を主原料とした焼酎で、奄美群島でのみ造られている。
米麴で一次醪を仕込んだのち、溶かした黒糖を加えて二次醪とする。
そば焼酎
そばの実を主原料とした焼酎で、主産地宮崎県高千穂地方の他、各地で造られている。
麹は米や麦が使われることが多いが、そばを用いたそば100%のそば焼酎も造られている。
そば焼酎は、特産品のそばを活用しようと、1973年に宮崎県高千穂地方で開発されたもので、比較的新しい焼酎である。
酒粕焼酎
清酒の酒粕を主原料とした焼酎で、主に清酒の蔵元で造られている。酒粕に含まれている麹の酵素と酵母の力で再度酒粕を発酵させ、蒸留した焼酎で、主に粕取りと粕醪取りの2種類の造り方がある。
粕取りは伝統的な造り方で、酒粕に少量の水を加えて数か月発酵させ、セイロ式の蒸留器を使用して蒸留される。九州北部を中心に17世紀ごろから造られていたと言われ、飲用、消毒用の他、日本酒造りの柱焼酎としても利用されていた。
粕醪取りは、酒粕に水を加えてお粥状態にして発酵させ、常圧または減圧蒸留器で蒸留する。粕取り焼酎より穏やかな味わいで、吟醸粕を用いて減圧蒸留すると吟醸酒のような華やかな香りとなる。
なお、第二次世界大戦後の混乱期に闇市で売られていた粗悪な密造酒がカストリと呼ばれるが、無関係である。
連続式蒸留焼酎(ホワイトリカー)
連続式蒸留焼酎とは、その名の通り連続式蒸留機で蒸留されたもののうち、アルコール分が36度未満のものを指す。なお、アルコール分が36℃以上45度以下はスピリッツ、45度を超えるものは原料用アルコールに該当する。
連続式蒸留機は1826年にスコットランドのロバート・スタインによって発明され、1831年、アイルランドのイニアス・カフェによって改良され、グレーンウイスキーの蒸留に用いられるようになった。日本には1900年頃に導入され、当時は新式焼酎と呼ばれた。
通常、連続式蒸留焼酎の原料としては廃糖密(モラセス)が用いられる。廃糖密は、主にサトウキビの搾汁から砂糖を取り出した後に残る、糖分やミネラルなどを含んだ黒褐色の液体で、単に糖密とも呼ばれる。連続式蒸留焼酎ではこの蒸留塔を複数組み合わせて、アルコール分97度程度のほぼ純粋なエタノールに近い液を得る。その後、割水をしてアルコール分を36度未満に下げる。
なお、現在日本では廃糖密の蒸留排液を処理することが困難なことから、あらかじめ発酵と簡単な蒸留を行った粗留アルコールをブラジル等から輸入し、連続式蒸留を行うことが多い。
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